辻桃子主宰作品 「童子」 11月号 迎へ火 より

   はらてふ古刀自は

これこそが芭蕉布ぞとて見せくるる

芭蕉布のひろげるやもうかさばれる

芭蕉布を着てみせたるがてふ古刀自

芭蕉布や島の旱の色したる

灼ける日のまだ灼けつける夕べかな

冷汁やひと日を生き得たりとのみ

出水して巨きな岩が戸口まで

旱星避難用意はできゐしに

黙すのみ出水の後の大旱

   秋田句会八月九日

ひさびさに秋田に入れば早稲の香が

日除けして漏れくる光尖りけり

大西瓜安楽椅子に置いてあり

うつくしき緑と赤を西瓜かな

三つ立て影の三つや庭日傘

毛を長うして考へてゐる毛虫

帰り来てねぷた過ぎたる津軽かな

   岩木山神社

とんばうや神の柄杓のひやつこき

野分めく雲の隙間に星赫く

野分去る並び三軒屋根飛んで

青林檎たんと落として野分去ぬ

路地奥のそこぽつつりと門火焚く

迎へ火の熾れば人の背丈ほど

迎へ火のかへり来る名に中小雪(こゆき)とは

   藤井なづ菜は

盆燈籠小雪待つとてまた泣けり

盆花の蝦夷菊固く束ねあり

生御霊けふは淋しと申しけり

送り火や街道筋の両側に

河原には茄子の馬や蠅たかり

重さうに脚の折れては瓜の馬

帰る道失くなつてゐし昼寝覚

雷神のころげまはつて秋に入る

浴衣の子ぞろぞろ来るや地蔵盆

めつきりとタオルの痩せて夏の果

   
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