辻桃子主宰作品 「童子」 9月号 
ウグヒス飼育許可証 より


玄関へゆく径失せし茂かな

帰り来て青田よかりと窓開ける

山荘を開くや若き蠅飛び来

その(かど)に蠅かと見れば西瓜種子

草好きで草は刈らずよわが庭は

客ら来て歩けるほどの草刈りぬ

草引くや草引いたとも見えねども

たちまちに毛虫に 螫され草刈女

和尚さまはいまだ着かれず夕郭公

蕁麻(みづ)むいて大黒さんは佳きひとで

穀雨かな庭木手入れに庭荒れて

屋根の人みしりみしりと梅雨兆す

母住まぬ家の青蔦濃かりけり

万緑や好きに生きたる父の墓

あつぱつぱー着るに釦の穴一つ

菖蒲見る見頃はすこし過ぎたれど

遠足の子の一列に河童橋

松葉藻の安気あんきとなびきけり

来ぬ人のことをぽつりと夏炉焚く

   讃岐より来し

崇徳院(もがり)の水の心太

   千原叡子さまへ

叡山とまず辞書引いて夏見舞

観修寺(がしうじ)は高僧出しと氷室守(ひむろもり)

   六月十四日膳所

ここがかの酒落堂(しゃらくどう)とて棕櫚咲けり

芭蕉玉解くや(をう)泊つ酒落堂

胡瓜咲き朝鮮通信使の道よ

みんなもう集つてゐる木下闇

   六月二十四日岩木山神社

夏深き(だけ)に登れば嶽の風

夏越かな鳥居の横でじよんがらを

夏越かな赤石川の金の鮎

ウグヒス飼育許可証貼つて(たかむしろ)

小流れをぴよんと飛びこえ山椒摘む

栗胡桃栃朴どれも花あはく

   斉藤夕日曰く

昔ここスクールハウス芹咲けり

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