辻桃子主宰作品 「童子」 11月号 盆北風 より

門入りて野に入るごとき帰省かな

夏深く草深くして母の家

となり家に赤子の泣くも盆の入

帰省して洗ひざらしの寝巻よき

なまいきや小蠅であるにぶんぶんと

ドイツ製革蠅叩役立たず

一匹の小蠅に負けを諾へり

北空はもう真黒や夕立来る

約束の客や早や着き麦茶噴き

夕立に乳まで濡れて駆けこみ来

ぎーぎーと二階へ上り葛ざくら

老いてなほ己れを(ぼん)と盆の客

ねぷた過ぎ(ぼん)()()の身にしみること

三伏や湯のやうに汗湧き出して

霍乱の汗のつめたきからだかな

霍乱の乳房に熱のこもりたる

橋渡り終へしところや昼寝覚

夏風邪の声涸れたれば笑へざる

いつせいに動くねぷたの笛の指

先頭が動けば動くねぷたかな

晒巻くをなごの胸もねぷたの夜

池中に弁天堂の極暑かな

裏庭は葡萄からみて盆の家

秋立つやきりきりと髪束ね上げ

洗ひに洗ひ干しに干しては秋に入る

なにもかも茂るにまかせ秋立てり

三伏やけふ一つかみ草引いて

門一歩出づる一面稲の花

稲の花咲きしと鍋を磨きつつ

なんといふ寺でなけれど盆が過ぎ

ひきつけしやうにひぐらし啼きにけり

夏果ての空の彼方に羊雲

羊雲空の放牧はじまりぬ

あれが終ひのトマトでしたと秋の風


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