辻桃子主宰作品 「童子」 9月号 鵜飼舟 より

岐阜提灯夕ちかづきし軒ともし

ともりたる岐阜提灯の鵜飼の図

とりわけてめだたぬ店や団扇屋は

水団扇つとあふぎては売りくるる

みづうちは幽霊の図のにじみたる

川に雨ふるを見つつに水団扇

木曽殿と呼ばれて広し夏の川

やうやくに闇濃くなれば鵜舟出る

提灯のゆれてうれしき鵜飼舟

鵜飼舟となりの舟は三味も出て

川風に火の粉ながるる鵜飼舟

縄文の人もかくやと鵜飼かな

朝廷へ献上の鮎汲みにけり

焼き上げて今年の鮎のをさなかり

鵜飼翁八十年を鵜と暮らし

    番匠冬彦・うかごの馳走に

しんなりと茗荷葉包みめうが餅

そら豆の黄色の餡も茗荷もち

    悼・植松孫一

植松孫一(まごいち)の手紙が遺品明易し

岸壁の孫一恋ふや梅雨に入る

けふ夏至や水車はまはらねばならず

汲みあげて真名井の清水とはよき名

    十三日太宰忌

悪い父でしたと語り桜桃忌

    六月二十一日瑞祥園

みちのくや梅雨入の炉をホと焚いて

縁側にちよと端居して祖父のこと

庭師亭山亭(ていざんていぐわ)()と継ぎ麦茶汲む

麦茶汲む一人は秋田より来たり

松は芯立て瀧石は凸凹と

庭涼しこれぞ大石武学流

    美容院ラレエヌ新開店

カーラーを頭いつぱい薔薇紅く

    「ラレエヌ」向ひ居酒屋「川崎」

美容院出てまつすぐにどじやう鍋

泥鰌鍋つつくや津軽連衆と

亡き父が地獄鍋とぞどじやう鍋

虫にやられ病ひにやられ薔薇ひらく

歩く径のこしてあとはぜんぶ薔薇

母はもう取らぬ実梅や吾がひろふ


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