辻桃子主宰作品 「童子」 6月号 花粉時 より


水温みきし両腕の骨折に

骨育つ三月(みつき)は長し春炬燵

建国の日や両腕がぶらぶらで

手の折れて春の股引(パッチ)を足脱ぎに

    三月一日俎板句会は

春めくやワンコイン寄席みにゆくと

春装や寄席へゆくてふほどでなく

ワンコイン寄席に笑ふも春浅し

春寒や二円足らずにまた出かけ

草の芽や犬が止まれば人止まり

頑としてとけぬ蜂蜜木の芽時

咲きみちて白梅の蘂強きこと

白梅のちりぎはにしてはなやげり

雛の日の梅の吹雪といひつべし

紐なして果ては玉なしお白酒

道濡れて降つてゐるらし春時雨

    鶴舞三月十九日

古草であれどあかるき川原かな

なづな咲く土手行かば土手帰るべく

茎立ちて鳥よく飛べりよく飛べり

空に在ることのうれしく春鴉

春鴉羽を自在につかひけり

抱き来て束にぎやかに彼岸供花

開店の花輪並べて韮の花

くさめして骨にひびくや花粉時

春装に稜の立つたるエメラルド

三角にお包み申し雛仕舞ふ

    冬季拾遺    

毛衣や撃たれしがごとぶらさがり

吊り下げて獣の重さ(かはごろも)

毛衣の弾痕めきて釦穴

    吾は    

撃たれたる毛物のめきしよ冬籠

その中の別れ難きは燗熱く


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