九月号 ウグヒス飼育許可証 辻 桃子 玄関へゆく径失せし茂かな 帰り来て青田よかりと窓開ける 山荘を開くや若き蠅飛び来 その稜(かど)に蠅かと見れば西瓜種子 草好きで草は刈らずよわが庭は 客ら来て歩けるほどの草刈りぬ 草引くや草引いたとも見えねども たちまちに毛虫に螫され草刈女 和尚さまはいまだ着かれず夕郭公 蕁麻(みづ)むいて大黒さんは佳きひとで 穀雨かな庭木手入れに庭荒れて 屋根の人みしりみしりと梅雨兆す 母住まぬ家の青蔦濃かりけり 万緑や好きに生きたる父の墓 あつぱつぱー着るに釦の穴一つ 菖蒲見る見頃はすこし過ぎたれど 遠足の子の一列に河童橋 松葉藻の安気あんきとなびきけり 来ぬ人のことをぽつりと夏炉焚く