十月号
   早よ来よ       辻 桃子

母がまた早よ来よと呼ぶ土用かな
老い母のけふ五歩あゆみ半夏生
どの殻の身も痩せ土用蜆かな
屋台出て素通りできぬ茄子買ふ
冷汁やもう次の飯考へて
(つり)(しのぶ)いくつ涸らせしまた欲しき
星祀り気らくなものに片おもひ
噴水の天の空気を濡らしけり
噴水の水の心棒透きとほる
噴水の柱なせしがふつと消え
噴水をあふぐやいつか顔濡れて

        相原農業高校
牛臭き風が吹くなり黍畑
のさばつてのさばつてもうトマトの木
農校の回廊造り葡萄棚
弁当は涼しき廊で農高生
JAZZと数珠聞きまちがへて蓮浮葉
あひにくの雨の一日の浮葉かな

  











       『桃子先生俳句ここを教えて』の
       表紙撮影・橋本哲氏と
夏草の光の加減よきところ
草いきれとも草刈のにほひとも
草いきれ激しき中で撮られけり
マンゴーをむく夕方になつてゐる
日覆ひを上げるや青き夕雲が
日覆ひにまた頭(づ)をぶつけ出てゆきぬ
夜濯のざつくり絞り干しにけり
夜干してぽたぽたとまだ垂れにけり
水紋の卍(まんじ)巴(ともゑ)と涼しかり
水無月の草々の名を問ひゆけり
倒木の洞に住みたき苔青し
夏の鳥鳴くや黄色き胸ふるへ
山霧の降りくる速さ早よ帰ろ
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