七月号
   みな裸       辻 桃子

        四月六日「童子」春合宿山梨
合宿といへど一泊木の芽山
春の夜や出湯にあればみな裸
すもも咲き花すもも咲き桃はまだ
太古には湖底(うなぞこ)なりしすもも咲く
根養生してあたたかや桃畑
長靴に桃畑の土たつぷりと
買ふだけがらくさと桃を剪定す
種薯の黒土まみれにて売られ
種薯のねずみ齧ると齧らぬと
甲斐の国おぼろに富士の頭出て
そのかみの砂金出でしと川朧

        恵林寺
春水や心頭滅却とて奔り

        放光寺
春の闇愛染明王天を射て

        慈雲寺
草餅を食ふたのしみに慈雲寺へ
見上げつつ枝垂桜の中あるく
出湯出て筍めしを待つてをり
草餅や昼湯を出ては山ながめ


  










        四月十六日矢川緑地
芹咲くや門とてもなき入口に
背高の人がその人蝌蚪見をる
曲るとき花びら筏伸びにけり
花びらの筏もなさず流れけり
花満ちて夜のつめたき木椅子かな

        想望下津井
舟待つや雨に濡れたる春の砂
下津井を舟で出るなり春の果
雨ながら一日を浜に石蓴汁
きしきしと骨育ちくる朝寝かな
花過ぎのまだ痛みたる両の骨

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