五月号 この世の梅 辻 桃子 麻酔覚め なんとまあ両腕折れて山覚める 頭蓋骨少し欠けては冴えかへる 包帯をごろごろ巻かれ室の花 安部元気曰く壊れたる木乃伊(みいら)ロボット冬ごもり 達者でと言ひしに転び冬の果 病室より見下ろしてこの世の梅の白々と 順調な回復なれど春浅く 退院や種芋の芽に赤みさし 母百歳吾れ退院母入院や梅白く 退院の足が細りて日脚伸ぶ 春待つや包帯干せば飛ぶやうな 階段のげに恐ろしき鬼は外 たらたらと包帯ゆるみ福は内 やうやくに目に手が届き木の根明く 山水図屏風ひろげて雛の壇 雛壇や遠野箪笥のその上に 雛飾る羽箒に羽根たつぷりと 雛飾る近江はけふも雪飛ぶと