「童子」 10月号 「珠玉童子」より (選句・鑑賞/辻 桃子) |
「山小屋」は夏の季題「登山」の副題だ。登山客がぎっしり雑魚寝するような山小屋の小さな風呂だ。四人も入ればいっぱいなのだろう。この句で、ある夏のねぷたを思い出した。矢花美奈子さんと親友の女優李麗仙さんが我が家に見えた。李さんは私の家にいる間中、次の芝居のためといって琵琶の稽古をしていた。昔は李礼仙の芸名で、夫だった唐十郎さんの主宰する「状況劇場」や「紅テント」の主演女優だった人だ。唐十郎は劇作家、演出家、俳優としてアングラ演劇の騎手。その活動は池田満寿夫や加藤郁乎、大野一雄、田中泯などともかかわりがあった。公演やテント購入の費用をひねり出すため、李さんは十郎と一緒にキャバレー回りの「金粉ショー」もしたという。当時、田中泯のために台本を書いていた私には、鮮烈な印象の話だった。 涼み船あちら唄へばこの舟も 舟 まどひ どの舟にも芸者衆が乗り合わせているのだろうか。私には中世の絵巻にある遊女の乗り合わせた舟のようにも読めてしまう。 |
初西瓜沖ゆく船の白々と 住友ゆうき 今年初の西瓜。真紅の果肉にかぶりつく。目をやると沖には、いま真白な船が。 水貝や氷片ちりと音たてて ふく嶋桐里 鮑を切って水に浮かべた料理。上方に多いのに北前船が伝えたのか、津軽では海(ほ)鞘(や)でこれをつくる。その氷が解けて触れあって、ちりと。 時化ちかき海が好きだとのたまへり 田村 乙女 科白の主は男だと読みたい。現代なら女でもありうるだろうが、作者の憧れる男の中の男が言ったと読むと、「のたまへり」の尊敬語がいろっぽくもなる。 私の家の方は、網戸売が来る。葭簀売であるところに地方色が濃くて楽しい。眠たくなるような売り声でゆるゆる行くのだ。停まるのかなと思えば、また進んでいる。あまり買う人もいないのもわかる。 魚簗小屋の厠洋風にて立派 はらてふ古 昔ながらの鮎の簗場だ。獲りたてのぴんぴんの鮎を串刺しにして焼いて食べさせる。風流で素朴な造りの鮎小屋だ、と思えば、厠ばかりは。こんなところに俳人は驚く。これが俳味というもの。 浮葉から浮葉へと蟻歩きをり 斎藤 梨菜 浮葉がぎっしりと池を埋めているのだ。 |
一頭と呼びてふさはし黒揚羽 園田こみち 蝶は頭で数える。それにはちょっと抵抗があるのに、この大型黒揚羽ばっかりは。こりゃ「一頭だ」! (「三尺童子」より) |
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